久しぶりの「映画で夜更かし」でございます。今回は梶芽衣子さんの特集ですが、その前に梶さんが入社することになる日活映画について少し。
日活映画というと1950年代後半から60年代初期あたりが全盛期だったと言っていいでしょう。石原裕次郎の『狂った果実』『嵐を呼ぶ男』『憎いあんちくしょう』(私は裕次郎さんではコレが一番好きです。)、小林旭の『渡り鳥』シリーズに代表される無国籍アクション(その他にも『東京の暴れん坊』という素晴らしいコメディー作品も忘れてはいけません)、赤木圭一郎の『霧笛が俺を呼んでいる』、和田浩治の『小僧』シリーズ等、この4人の主演作品を「日活ダイアモンドライン」と命名。ローテーションで映画が製作されました。しかし、61年になると裕次郎はスキー事故で降板、赤木圭一郎は事故死とラインが崩壊。その分を旭が孤軍奮闘、カバーすべく悪役だった宍戸錠も主役に昇格。黄金コンビが解消されてしまいます。また、この時期は邦画界自体がテレビの普及によって観客動員数を減らし以前の勢いを失ってもいました。ダブルパンチ。今までのマンネリズムを脱却しなければなりません。(事実63年には旭は今までのシリーズものを終え、ギャンブラーや任侠作品が多くなり、裕次郎は『夜霧のブルース』でムードアクションに活路を見出しています。)
60年代後半になると新世代の監督による「ニュー・アクション」と呼ばれる作風が生まれます。無国籍さはなくなり、現実のアウトローを描いたものになりました。そこで活躍したのが渡哲也、藤竜也、原田芳雄等(個人的には郷^治が好き!)若手の俳優でした。そして女優でもスターが登場します。それが、梶芽衣子です!
ここでは彼女の作品をできるだけ多く紹介し、スモール・サークル・オブ・フレンズの皆様にも女優・梶芽衣子の素晴らしさを共有できたらと思います。
<太田雅子時代>
1965年日活『悲しき別れの歌』(西河克己監督)でデビュー。芸名は本名の太田雅子でした。
・『夜霧の慕情』(1966.6.1封切)監督・松尾昭典
石原裕次郎主演のムードアクション。ヒロインに松竹から桑野みゆきを迎えての作品。梶さんは裕次郎さんに資金援助してもらって花屋を開業。裕ちゃんに想いも寄せている役柄。それを嫉妬している役に藤竜也。最終的に梶さんと藤さんは結ばれます。これがニュー・アクション期で活躍する名コンビの初共演という記念的な作品となっております。
宍戸錠さんは根っからの悪役を好演、ラストの裕次郎さんとの殴り合いは迫力満点です。
・『嵐を呼ぶ男』(1966.12.10)監督・舛田利雄
1957年に石原裕次郎主演で大ヒットした映画を渡哲也でリメイク。この頃の渡さんは裕次郎さんのヒット作の再映画化が続きました。期待せずに観たら結構よかった。渡哲也さんの映画は食わず嫌いならず、観ず嫌いだったことに気がつきました。ゴメンナサイ。前作とは多少ストーリーが違う部分があるので、見比べるのもいいでしょう。
梶さんは渡さんの弟、藤竜也の恋人というか、彼をもてあそんじゃうお嬢様。(この辺りも前作とちょっと違う)渡さんを好きになります。意識的にスキンシップしますが見事にふられて消え去ります。珍しくショートヘアにしております。
・『大幹部・無頼』(1968.4.28)監督・小澤啓一
渡哲也主演による人斬り五郎「無頼」シリーズ第2作。前作『無頼より・大幹部』(1968年・舛田利雄監督)の続編です。監督は本作がデビューとなる小澤啓一。やくざ映画ですが東映任侠路線の様な様式美、義理と人情とは違った世界が描かれています。この稼業からいつか抜け出すことを願う主人公。子分達にも「足を洗って故郷に帰れ」と言ったりと。“ここではないどこかへ”を求めるがそこへたどり着ける者は一人もいない現実。
梶さんの役柄は酒場のフラメンコの踊り子で、最初の出番で踊りも披露しております。渡さんと敵対する組の代貸(二谷英明)の妹役。でもって渡さんと二谷さんは刑務所の先輩後輩の間柄。さらに梶さんと結婚を誓い合ったチンピラ岡崎二郎は渡さんが世話になっている組の者。わかります?ま、本編を観ていただければと。前作の浜田光夫と北林早苗のポジションになるわけですが、それ程出番はありません。この頃の梶さんは顔が丸い!ポッチャリしていますね。若いってことですね。
芦川いづみさんがいいですね。日活で好きな女優さんの1人です。1番は当然浅丘ルリ子さんですけども。渡さんに以前助けられて今は赤線の女になっている役柄。そのヒモに田中邦衛。兄貴分の仇として渡さんを追っていた。結構美味しい役どころです。何だかんだで和解して、街を離れることに。ここでも二人で行くことはなく、寂しい別れとなります。邦衛さんにいづみちゃんが「これからどこへ行くの?」「北海道。」と言うことは富良野?五郎さんって名前までもらっちゃって。そうだったんですね。
<そして梶芽衣子へ>
・『日本残侠伝』(1969.8.9)監督・マキノ雅弘
先に述べた様に1963年、路線変更を余儀なくされた日活は任侠映画を多く撮るようになります。この年から高橋英樹の『男の紋章』シリーズが始まり、任侠路線の主柱のひとつとして活躍しました。
そして東映で『日本侠客伝』シリーズ等を手がけ、任侠映画の定型を生み出したマキノ雅弘監督をついに招いて製作されたのが本作。日活アクションの跡形もなく、完全に東映調の作風に仕上がっています。と言っても見応えのある、高橋英樹さんの代表作としてもすばらしいものでございます。最近のバラエティ番組でしか知らない方にもオススメです。
ここで太田雅子さんはマキノ監督により、「梶芽衣子」と改名されます。日活としては、任侠路線で持っていこうとしていたようで、それなら名前を変えて売り出そうと。事実この後の作品は任侠映画が続きます。
今回の役どころは女郎役。英樹さんに恋心を抱きますが、報われない悲しい結末を迎えます。マキノ監督に着物の着方、仕草などを教わり、それが後の『修羅雪姫』等に生かされたと本人談。え!22歳!大人の表情にドキッ。
1970年の梶さんは、13本の映画に出演しています。この年は彼女にとって一大転機を迎える年となりました。それは「野良猫ロック」シリーズの始まりです。
・『日本最大の顔役』(1970.4.18)監督・松尾昭典
小林旭主演の実録路線やくざ映画。梶さんは、悪徳興行師に脅される歌手。ニューアクションコンビ藤竜也と端役出演ですが、ヒロイン的な存在。お世話になっているやくざの親分が刺殺されるのを目の当たりにして気絶してしまったりと、この後の不良少女イメージとは正反対の役柄。でも言葉の節々から芯の強さが垣間見えるのは、やはりといったところ。井上昭文演ずるヤクザのお通夜で(一途な恋心を裏切られるシーンはちょっと切ない)歌われる「五木の子守唄」はしびれます。コブシをきかせたりと、すでに「恨み節」等で聴かれるスタイルが確立されています。このシーンで彼女程歌唱で決められる日活の女優陣は見当たりません。歌でいけると踏んだ日活サイドはこの年に梶さんをレコードデビューさせています。
旭と宍戸錠は日活での最後の共演。(「渡り鳥」シリーズでみられる敵対関係だけれども助け合う間柄がここでも展開されます。)郷^治も渋い演技で盛りたて、ジェリー藤尾に無理やり歌わされる由利徹も面白い。(よくこの方は牢屋の中でお見かけしますなぁ)
・『反逆のメロディー』(1970.7.22)監督・澤田幸弘
日活以外の俳優で主役を探していた澤田幸弘監督が、梶さんのすすめによりオファーしたのが原田芳雄。しかし映画出演に消極的だった原田芳雄ちゃんは「やくざ映画だが、普段着のジーパンのままでよければ出てもいい。」と条件をだした。それを受け入れて制作されたのが「反逆のメロディー」。タイトルからしてやくざ映画らしくない。本編を観ればわかるんだけど、ギラギラした青春ものと言った感じ。中でも光っていたのが佐藤蛾次郎。芳雄ちゃんのダチ公"ゲバ作”を演じポッコリお腹に意外と細い足で暴れまくってます。彼が唄う「もずが枯木で」も印象的。
梶さんの役は、やくざの地井武男と結婚を約束した女性。出演シーンは少ないものの、クールな反面、健気で一途な女性を好演。いやぁ、なんともはや惚れますなぁ。
・『野良猫ロック・セックス・ハンター』(1970.9.1)監督・長谷部安春
レンタルして観たんですが、置いてある場所がにっかつロマンポルノやお色気ビデオと一緒だった。世の中まちがっとるよ。要はアダルト映画扱いにされているわけで。タイトルで判断してしまったのだろうけども。あれ、じゃあお前はアダルトコーナーの暖簾をくぐったのか!キャーエッチ!スケッチ!ワンタッチ!うまいヌードル、ニュータッチ!ちょっと、ちょっとちょっと!あれ?これはマナカナか?いいじゃない私だって男よ!ま、ジャンル分けを厳密にするのは難しいかもしれませんが、これはいかがなものかと。おかげで女性がレンタルすることはまずないという悲しい状況なんですよ。ですよ〜。あ、ゴメンナサイ。それに対してジョン・ウォータズの『ピンク・フラミンゴ』は素知らぬ顔して一般映画と並んでいる。これも最も危険が危ない。
思うに「日活ニュー・アクション」というものの認知度がかなり低いからなのだと。裕次郎も旭も出てないし。事実当時の観客動員も散々だったようだし。でもそれに反して見応えがある作品がそろっているんですよ!ですよ〜。あ、またやっちゃった。
『野良猫ロック』シリーズの第3弾。5弾まで作られました。シリーズといっても設定、キャラクターは統一されているわけではないのでどれから観てもOKよ。
まずは梶さんのフチの広い帽子が印象的。『女囚さそり701号』ではさらに広いものをかぶってました。藤竜也ら不良グループのアジトにドアを開けて現れる彼女の神々しさ。ドキッとします。それにしても男性陣は何だかジメジメという感じ。コンプレックスとトラウマのカタマリの様な藤竜也、生き別れになった妹を探している安岡力也。そう、力也と言えば彼の登場シーン。「禁じられた一夜」(なかにし礼・鈴木邦彦名コンビ作!)を歌って梶芽衣子の所に現れるんですが、ここはやはり日活らしいです。ラストにデュエットで歌うんですけどもいいですこの曲。映画音楽は鏑木創。このシリーズ通して言えることですが、音楽が相当いいです。CDも出ているので廃盤になる前に買っておくことを強くオススメいたします。まだ5人だった初期のゴールデンハーフが「黄色いサクランボ」を歌うのも貴重。ノリノリのゴーゴーダンスがイカシマス。
「野良猫ロック」(ウルトラ・ヴァイヴ)
ラストはなんで?岡崎二郎もそうだったの?と戸惑う部分もありますが、これはそう言う時代だったんだと。映画全体のイカス雰囲気を楽しむべきだと。とにかく観て!観て観て!(実演販売風)アダルトコーナーへGO!
・『流血の抗争』(1971.6.10)監督・長谷部安春
宍戸錠主演のやくざ映画。ストーリーとしてはやくざ同士の縄張り争い、親分殺害、組が壊滅状態、そして最後に復讐へという定番パターンながらも、長谷部監督の演出で見応えのある作品に仕上がっております。まずは内田良平の憎たらしい悪役ぶりが素晴らしい!やはり敵役がこうでないと盛り上がりに欠けますわな。それと藤竜也の「兄貴、寒くないですか?」がやっぱりシビレルゥ。
梶さんはジョーを慕う小料理屋の女将。24歳とは思えない和服美人!で情感を出しております。それにしても彼女に報われる恋はやってこないのでしょうか?
今観ても楽しめる作品を連発したニュー・アクション路線でしたが、興行的には落下を食い止めることができず、1970年に同じ経営不振の大映と配給部門を一つにし、ダイニチ映配を設立します。しかしそれでも行き詰まった日活は翌年1971年、大映と袂をわかちロマンポルノ路線を開始させます。同時に梶さんは日活を退社。東映に移籍します。
移籍第一作は『銀蝶渡り鳥』(1972年・山口和彦監督)に主演。銀座のホステス任侠ハスラー映画(?)といういったいどういう作品なのか興味を非常にそそりますが未見。
・『女囚701号さそり』(1972.8.25)監督・伊藤俊也
その『銀蝶渡り鳥』を観た伊藤俊也が自分の監督デビュー作の主演に梶さんをオファー。彼女の代表作となった超ウルトラ・スーパー必見の映画でござる。この後にも主役松島ナミを様々な方が演じられましたが、(そして今でも“さそり”と名の付いた作品は出続けています)やはりオリジナルを超えるモノはなさそうです。他との一番の違いはエロティックに主軸を置いていない点だと思います。あくまでも本編は復讐劇。そして反体制。オープニングの東映マークのバックに流れる「君が代」からして甘くみたら怪我するよ!と言っているようです。とは言え、この第一作目は東映サイドの意向かシリーズ中一番露出度が高い作品になってます。女囚のシャワーシーンがあるし、梶さんも脱いじゃうし、片山由美子とカラミはあるし、もう癖になっちゃっているしと。そんな感じなんですよと。逆に作品を重ねるごとに血のりの量が増えていきますけども。
梶さんは、脱ぐかわりに「喋らない」演技プランを提案。主演が全く喋らないというのは前代未聞だけど、ちゃんと話は流れている。寡黙に監視たち(渡辺文雄、室田日出男、堀田真二、沼田曜一!)の責め苦にじっと耐え抜き脱獄の機会を狙い、ラストの復讐で一気に爆発いたします。
酷い仕打ちをする女囚たちに横山リエ、三原葉子(新東宝の怪談チックな演出がハマってます)、根岸明美、それをかばう味方に扇ひろ子(日活時代の借りを返したかな?)、渡辺やよい(故蔵間夫人、ちゃんこ食べに行ったら会えるかしら?いいよなぁ)、よく観ると若かりし小林稔持を見つけることができます。
伊藤監督のケレン味たっぷりの演出も楽しめます。3作通してぜひ観て、観て観て!
・『女囚さそり 第41雑居房』(1972.12.30)監督・伊藤俊也
映画は大ヒット!当初シリーズ化の予定はありませんでしたが、続編を製作することに。1作目と本作の間に『銀蝶流れ者 牝猫博徒』(1972.10.25・山口和彦監督)があったことを考えなくとも、かなりハードなスケジュールだったことが容易に想像できます。主題歌「恨み節」も注目され、レコード化の予定はこれもありませんでしたが、この2作目公開に先立って急遽リリースされました。んがっ!紛らわしいことにレコード用に吹き込まれたもので、本編にはこの音源は使われておりません。またシリーズ毎に吹き込みされていたので、多数のヴァージョン違いが存在します。全てCD化をお願いしたいところです。
お話は前作の続き。復讐を遂げてまた監獄入り。前作と同じ看守たちの酷いいじめに合うさそり。が、護送トラックでのトラブルで白石加代子をお頭とする女囚6人と脱獄。この方々達ズがかなりのドリームチーム。
メンバー紹介。白石加代子はこれが映画初出演。彼女の狂女ぶりがこの作品全体を非現実へと誘います。「そんなバカな・・・でもこの人ならありえるかも。」と現実との境をヒョイと飛び越えちゃってます。荒砂ゆきは大映『おんな牢秘図』シリーズ出演で女囚経験済み(?)、伊佐山ひろ子はこの年日活で『白い指の戯れ』(村川透監督・これはオススメ!)主演、『一条さゆり 濡れた欲情』(神代辰巳監督)出演でキネマ旬報主演女優賞を受賞!八並映子は大映「高校生番長」シリーズの女番長スター(っていうのこういう場合?)。賀川雪絵は石井輝男監督の東映異常性愛路線の常連。石井くに子の役だけはさそりと仲がよくなりますが、温泉客3人(こやつらのバス内での会話は非常に不快)に襲われた挙句川へ捨てられちゃいます。その後どうなっちゃうかは観てから驚いてくだされ。
この6人の犯罪を講談調というかアングラ演劇風にスポットを当てていきます。今作はこの女囚達の“恨み節”と言った趣で、さそりは一歩退いている感があります。
さあ、ここで問題です!小林稔持さんが先ほどの温泉客の一人として出演していますが、別の役でワンシーン出ています。どこでしょう?
さそりに酷い仕打ちをした小松方正は映画史上類をみない惨めな死に様をさらし、そして前作からの悪徳看守達の仕置きも完遂。さそりは次回どうなるの・・・?
・『女囚さそり けもの部屋』(1973.7.29)監督・伊藤俊也
初っ端から度肝を抜かされる「さそり」シリーズ3作目。外国でもDVDが出ているようですが、ジャンルはホラーだそうで。それもうなずけます。今回は都会に紛れて暮らす松島ナミ。復讐劇としては前回で終わったはずですが、売春で女性たちを虐げる奴らども(李麗仙、南原宏治)にお仕置きという流れ。渡辺やよいがさそりを助けるマッチ売りの少女として出演。さそりを追う刑事は成田三樹夫、さそりに言い寄ってくる男に藤木孝(こういうのやらせたら右に出る人はいませんね)。刑務所の中という閉ざされた空間から外に出ることによって展開に広がりが出来て楽しめます。
仕立て屋でミシンを踏んで生計をたてる毎日。このまま平穏に暮らさせてあげたい。渡辺やよいに缶ジュースを買ってあげるシーンにジーンときてしまったのは僕だけでしょうか?非現実な世界ばかりが続くので、こういうシーンの方が変な感じ。でもこれが普通のことなわけで。そう見えないさそりの悲しみがあると思うのですが。どないだっか?
後半に地下水道に逃げ込んださそりに食料を渡そうと、マッチに火をつけてマンホールに投げ込み探すやよいさん。「さそりー、さそりー」の呼び声が今でも耳に残っています。あんな蓋あるのかしらと思ったりしないように(ナニ、僕だけ?それはあしからず。それにしてもちゃんこ食べに行ったら会えるかしら?いいよなぁ)。そして三樹夫ちゃんは最終手段でガソリンを流し込み火責めにあわせます。さて、さそりは助かるのか否か?
李麗仙の衣装とメイク、ありゃなんだ?さそりとは同じ刑務所を出たアイツ。人としてあのチョイスをするのはいかがかなと。だれも格好に触れないし。「おい、やっぱりやめてくんない、それ?」と言えないのか?エンディングはさそりのポスターが燃え、行方は誰も知らない、知られちゃいけない。これでシリーズが完結。のはずが、この年の末に4作目が日活時代の「野良猫」コンビ長谷部安春監督で実現します。
・『現代任侠史』(1973.10.27)監督・石井輝男
1963年に公開された『人生劇場・飛車角』(沢島忠監督)の大ヒットを機に始まった東映任侠映画路線。それから10年を記念して制作(されたんだと思ったけど違った?)。脚本は橋本忍、監督は日活時代『怪談昇り竜』(1970)以来の石井輝男。この異色コンビでどんなモノになるのかと期待しましたが、石井監督の意外ね、意外ね!と思わせるところが全くなく平坦な作品と残念な結果でした。
元やくざで今は寿司屋の高倉健さんに恋するルポライター役が梶さん。この映画では完全にさそりのイメージを払拭する一途な女性を演じます。恐らく東映側は藤純子さんの穴を埋める女優として梶さんを考えていたのではないかと思われます。しかし「さそり」シリーズの印象が強いせいか、家に帰ると両親がいて「ただいま」なんてシーンに違和感を抱いてしまった。せめて両親の配役に有名な俳優さんを当てたらそんなことはなかったかもしれない。結婚しようって話なんだからその方が作品に厚みができたんじゃないかと、失礼ながらそう思ったんですけども。健さんと梶さんのラブロマンスを描く傍ら、ヤクザの勢力抗争の沈静に東奔西走する安藤昇も追っていくのでどっちつかずの中途半端な感じは否めません。そのため最後の健さんの殴りこみもイマイチ盛り上がりに欠けます。救いは南利明と田中邦衛のやりとり。メインストーリーに関係ないキャラクターだけに自由にできているのがよかった。梶さんはアップの多様でさそりとは違った表情で語る演技を効果的に使っています。
同年に深作欣二監督の「仁義なき戦い」シリーズで実録路線が始まり、任侠路線も下火になります。エンディングにも時代が去った哀愁が漂います。
・『修羅雪姫』(1973.12.01)監督・藤田敏八
「さそり」のイメージから脱却を試みていた梶さん。しかし東宝にいた藤田敏八監督に呼ばれてまた復讐のヒロイン役を受けます。梶さんのインタビューを聞いていて日活時代のスタッフに対する仲間意識が強いんだなぁと思いましたよ。長谷部監督ともそうだし。でもって梶さん自身が「アウトロー路線の集大成」と語っているのが本作です。「さそり」シリーズと同様、劇画からの映画化。タランティーノ監督の『KILL BILL』の元ネタとして最近では有名になりました。
とにかく血ノリの量が半端じゃない!(この辺りの描写もタランティーノ監督はよりリアルに描写してますよね。)それにしても東宝映画って家族みんなで楽しめるって感じの社風だと思ったんですけど。これはかなり珍しいんではないでしょうか。藤田監督としても。時代がそうさせたんでしょうか?
刀のさばき方、マキノ雅弘監督直伝の着物での芝居も決まっています。「さそり」と違って復讐への焦りや不安、ひと時の安らぎ等人間的(?)な部分も描かれていたり。また効果的に流れる主題歌「修羅の花」の作詞は原作者である小池一雄。文語調の歌詞を語るように梶さんが歌います(作曲は平尾昌晃)。
・『修羅雪姫 怨み恋歌』(1974.6.15)監督・藤田敏八
前作で怨みを晴らした雪。んが!安らぐ暇などなく殺人者として山本麟一ら官憲に追われる日々が続き、ついに疲れ果てて捕まってしまいます。そこで待っていたのが国家秘密警察の岸田森と南原宏治、バックには国会議員の安部徹と豪華な悪役陣。死刑を免除する代わりに伊丹十三演ずるアナーキストのもとへ女中として潜入するよう命令。その弟には久しぶりの原田芳雄。前回よりも反体制的な描写が前面に出ています。
これは私的な感想ですが、ここまでヴアーッと続けて観た関係上、そろそろ違った役柄がみてみたいなと。楽しめるんですけども、作品的に前作で完結しているわけだからもういいんじゃないかと。梶さんはこれでアウトロー路線を一区切りにします。ウィレム・デフォーの時にも書きましたけど強烈なキャラクターを演じてしまうとそこから抜け出すのってものすごく難しいんですよね。観客が期待している所と違ったりすると離れていくんじゃないか、でも女優として新しい引き出しを作っていかなくては先に進めない。さて、これからがどんな映画に出るのかお楽しみ!
・『無宿』(1974.10.9)監督・斎藤耕一
そうですよ。こういうのが観たかったんですよ!フランス映画『冒険者たち』(1967年・ロベール・アンリコ監督)がベースになっております。勝新太郎と高倉健の二大スター共演!ということで、強い個性がお互いの良さを打ち消し合いはしないかと心配しましたが、そんな必要はありませんでした。梶さんの役柄は二人に足抜けさせてもらう女郎役。世間知らずで儚げな感じの役柄は新たな魅力を生み出し新境地。おめでとうございます。いや、本当にもうグッドです。時よとまれ君は美しい!(あれ?こんなフレーズありましたよね)夏の風景を描いた映像美がすばらしく、観終わると出演者の皆さんもその雰囲気を醸し出す一片に過ぎなかったのではと思ってしまいます。もちろんちゃんとした腕があってこそ、そう思えるのですが。ストーリーを追うというよりもそちらに酔いしれてしまってください。
(2007.6.3)